紅いつぼみのいとしさよ

 

 

祐巳さんって不思議・・・

志摩子はふとそんなことを考えていた。

志摩子にとって祐巳は、単なるクラスメートにすぎなかった。ただし志摩子にとってすべてのクラスメートは単なるクラスメートであったことを考えれば、特にいう必要のあることではないのかもしれない。

あの時志摩子の中で何かが動いたのだ。そう、祐巳が祥子の申し出を断った時である。志摩子の目には、祐巳は大人しい、普通の生徒に見えていた。だからきっと彼女は受けいれるだろうと思っていた。しかし結果は

noだった。

予測不能、志摩子は単なるクラスメートだった祐巳に関心をもったのだ。

 

祐巳さんって不思議〜

由乃はふとそんなことを考えていた。

由乃は祐巳と同じクラスになったことがなかった。つまり事前の情報はゼロ。故にその時、その場で見たイメージでしか祐巳のことは分からなかった。ぱっと見て、祐巳が祥子様のファンであることはすぐに分かった。だから祥子様が祐巳に申し込んだとき、面白いことがあるものだと、たぶん一番のん気にかまえていたのだ。人生はドラマである。

そして祐巳が断ったとき、驚くと同時にひどく納得している自分がいた。由乃には少し、祐巳の気持ちが分かってしまったからだ。「このままではいけない」、そんな気持ちを。たったそれだけのことだったけれど、

「私はあの時から祐巳さんの味方だった」

由乃はそう自負している。

 

 

ある晴れた日に。

薔薇の館を目指して島津由乃が歩いている。

テスト開けのせいか、彼女の足取りはとても軽い。

階段なんて一段飛ばしで登れそうなところだが、そこはリリアンの生徒らしく、おちついた足取りで2階へ向かう。

もしかしたら、まだ誰もいないかも・・・・。

扉を開けるとそこには

「ごきげんよう、由乃さん。テストお疲れ様。」

志摩子さんがいた。白薔薇のつぼみに相応しい清楚で可憐な彼女は、テスト明けにも変わらずマリア様のほほえみを見せる。

「ごきげんよう、志摩子さん。そちらもお疲れ様。」

「私たち以外はまだ来る気配がないわね、お茶でもいかが?」

由乃がうなずいて、ふたりでお茶を淹れ始める。

別に黙っていると苦しいというほど、他人行儀な仲ではないが、志摩子と2人っきりだと会話に困ってしまうのが由乃だった。やはりコミュニケーションをとって安心したいのだろう。

「志摩子さん、テストどうだった?」

無難なところでテストの話題をふってみる。

「テスト?そうね、いつもどおりよ。由乃さんは?」

「私?まぁ色々あるけど、終わっちゃったことは仕方が無いしね

そうね、と志摩子があいづちをうつ。

・・・・・・会話終わっちゃった。

よく考えれば志摩子さんはやっぱり成績優秀なのだから、この話題は不向きだったかもしれない。

最近由乃が見ているドラマの話など、令ちゃんならいざ知らず、志摩子にはできない。志摩子が見ている可能性はあまりに低く、申し訳なさそうに微笑んで「ごめんなさい、見ていないの。」と言われるのが関の山である。

祐巳さん、まだ来ないのかな・・・・。

「祐巳さんって」

!、タイミングがあまりにも良かったので、由乃は少し驚いた。

「テストのあと少し面白いのよね。」

「そうなの?」

由乃は祐巳と同じクラスではないから、テスト直後の祐巳のことなど知る由もない。

「奇声というか、うーとかあーとか言いながら教科書を見て、うなだれているのよ。」

とってもよく想像出来たので由乃は笑ってしまった。

「たまに私にここはどれにした?とか聞きに来るのだけど、私と答えが同じだというだけでうなだれていたのが、にこにこ笑い出したりして・・・」

テスト直後も祐巳の百面相は健在のようである。

「私も見たかったわ。」

由乃の本音だった、聞くだけでくるくると変わる祐巳の表情が浮かんでくる。

「これからまだ見るチャンスがあるわよ。」

志摩子もくすくすと笑っている。そこへ

「ごめんなさい、遅くなってしまって。」

ぎゅっと申し訳なさそうな顔。

「あれ?ふたりだけなの?」

緩んで、意外そうな顔。

「良かった〜ごきげんよう、志摩子さん、由乃さん。」

ほっとした声で明るい声をあげる。

あまりにもタイミングの良い祐巳。志摩子と由乃は顔を見合わせて笑い出す。

「どうしたの?ふたりとも。」

祐巳は不思議そうな顔をして、こちらへやってくる。

ふたりが答えずにいると祐巳は

「何か面白いことでもあるの?教えて?」

笑い続けるしかない志摩子と由乃。

「もう、どうしたの?ねぇ、ひどいわ、ふたりとも。」

「ごめんなさい、祐巳さん。何でもないのよ。」

笑いを抑えて由乃がフォローに入る。

「由乃さんの言うとおりよ。なんでもないわ。あ、お湯が沸いてるわ、紅茶を淹れましょう。」

志摩子はそれだけいうと、ケトルを手に取った。

「祐巳さん、ほらほら座って。テストお疲れ様ってことで乾杯しましょう?」

由乃は祐巳を座らせると、志摩子を手伝った。

「もう、2人ともなんなの〜?」

祐巳の声がふたりの背中に聞こえた。

 

三人にカップが行き渡る、由乃が音頭をとった。

「テストお疲れ様、乾杯。」

「乾杯。」

祐巳が紅茶に口をつける様をふたりは見ていた。

ひとくち飲むと祐巳は「おいしい」とほほえむ。

それを見て、志摩子と由乃はかすかに笑いあった。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送