屈折率

 

 

 

「蓉子ちゃん、お茶をくれない?」

「はい、白薔薇さま。お待ちください。」

ここは薔薇の館、山百合会本部。生徒会活動の拠点として機能している。

水野蓉子は2年生でありながら、山百合会の主力として働いている。これもあの無関心な同学年の2人のせいだ、と蓉子は思っている。しかし同時にあの2人を憎からず思っている、結果、こうして2人の分をカバーする為に頑張って働いているのだった。仕事なんて不思議なもので、やればやるほど増えていくのである。

蓉子は紅薔薇さまの妹であり、白薔薇さまは直接のお姉さまではない。けれども、こうして一緒に仕事をする機会は意外に多い。

白薔薇さま・・・聖のお姉さま。

決して聖は、扱いやすい人間ではない。

どうして、この人は聖を妹に選んだのだろう。

聖はあまり山百合会に寄りつかいないから、白薔薇さまはかなりの仕事をひとりでこなしている。

私のことは・・・ただの口うるさいやつだと思われても仕方がないけれど、もう少しお姉さまのことを考えてあげたらいいのに・・・と思う。

「どうぞ。」

白薔薇さまに紅茶をお出しする。

「ありがとう。あら、蓉子ちゃんは飲まないの?」

「よろしいんですか?」

「えぇ、休憩にしましょう。あ、書類がばらけてしまうと困るから、これをそこに置いてくれる?」

「はい。」

白薔薇さまお気に入りのペーパーウエイトを手にとる。修学旅行中、ヴェネチアで記念に買ったというガラスのペーパーウエイト。

自分の分の紅茶を淹れてきて、白薔薇さまの隣に腰をかける。

「蓉子ちゃん。」

「はい?」

白薔薇さまが私の名を呼ぶと、じっと私を見た。

「さっき聖のことを考えていたでしょう?」

「・・・はい。どうしてお分かりになったんですか?」

「勘、かしら。」

くすっと白薔薇さまは笑った。

私は思い切って聞いてみることにする。きっとそのために、この人はわざわざそんなことを指摘したのだろうから。

「白薔薇さま、どうして聖を妹にお選びになったんですか?」

「どうして・・・そんなこと聞くの?」

私はさっき考えていたようなことを口にした。

「扱いやすくない、か。でもそれは蓉子ちゃんも同じじゃないの?」

「それは・・・でも祥子は・・・」

「祥子ちゃんは確かにかわいいけれど、ある意味聖以上に面倒なタイプなのではないかしら。」

それは、その通りだろう。聖にも似たようなことを言われた気がする。

 

 

「聞かれたことに答えましょうか・・・。」

白薔薇さまが言葉を繋いだので、耳を傾けていることにした。

「私にとって扱いやすい、扱いにくいは大して意味のないことよ。だって妹は妹で、道具じゃないんだから。山百合会の幹部だって聖が望まないのなら、跡を継いでほしいなんて思わない。」

それは、きっと歴代の薔薇さまと呼ばれた人たちも思っていたことだろう。

「まぁ、私は聖の扱いに関しては、誰よりもうまいって自信があるけれど。」

余裕に満ちた口調、カップに白薔薇さまは口をつけた。

私は・・・まだ聖との上手な距離のとり方が分からない。いつも聖の神経を逆撫でてしまっていいる気さえする。

「まぁ、いつか蓉子ちゃんには、負かされてしまうかもしれないけれど。」

そんなことあるのだろうか?白薔薇さまはにこにこ笑うだけだった。

白薔薇さまは立ち上がり、さっき私に置かせたペーパウエイトを手にとった。

そして私の隣に座りなおす。

「ねぇ、蓉子ちゃん。見て。」

光があたって、ペーパーウエイトはきらきらと輝いている。

「綺麗だと思わない?」

「はい、綺麗ですね。」

白薔薇さまはふっ、と不敵に笑む。

「屈折率の高いものほど、美しいものではなくて?蓉子ちゃん。」




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