お嬢様たちのQUIZ

 

 

 

「クイズ出してもよろしいですか?」

お茶会の最中、黄薔薇のつぼみ、島津由乃はこう切り出した。

「由乃、突然何言ってるの?」

「いいじゃない、お姉さま。せっかくこうして皆揃ってお茶を飲むのだし、余興のひとつくらいあっても」

いつも唐突な妹を止めようと疑問を発した姉、支倉令だったが、由乃は全く気にする様子がない。

「由乃さん、クイズってなぞなぞみたいなもの?」

特にクイズをやることに疑問を感じないのか、紅薔薇のつぼみ、福沢祐巳はクイズへの具体的な質問を口にした。

「まぁそう思ってくれて良いと思うわ」

由乃は祐巳がのってきたことが嬉しいのか、にこにこ応じている。

「じゃぁ、クイズ出しますね」

「由乃、ちょっと待ちなよ。せめて全員に意志の確認をしてからにしなさい」

妹に甘い姉、結局止めきれず次善策を講ずる。

「分かりました。では祥子さま、いかがですか?」

最もこの場で発言権のある人物に話をふる由乃。

「私はかまわなくてよ、単なる余興なのでしょう?」

私はどうでもいいわよ、という反応を示す祥子に

「あら、祥子様。余興といえど、クイズはクイズ。お答えになれないなんてことがあれば、紅薔薇の名が廃るのでは?」

由乃は挑発的な言葉を投げた。

「…もちろん正解してよ?紅薔薇の名にかけて」

控えめながらその挑発に乗った祥子。

「由乃ぉ」

ミスターリリアンはノリノリの妹に情けない声をあげる。

「お姉さまはもちろん参加されますよね?」

「……。」

「ね?」

「………はい」

たっぷりとった間は令のささやかな抵抗の証、押し切った形ではあるが、由乃は姉から賛成をとりつけた。

「志摩子さんは?お嫌かしら?」

「私は祥子さまと令さまがよろしいのでしたら…」

「そう、じゃ賛成ね」

控えめな志摩子の返答に、由乃はあっさりと判断を下した。

「祐巳さんは?」

「私は…自信ないけどいいよ。」

祐巳は先ほどの由乃と祥子のやりとりにあてられてしまったようだ、おどおどしている。

「祐巳、私の妹ならもっと堂々と、勝利宣言くらいして御覧なさい」

祥子はもうすでに臨戦態勢らしく、言動が好戦的になっている。

「そんな、お姉さま…」

「祐巳」

向けられた誰もを威圧する声。

「は、はい、頑張ります」

首をすくめて返事をした。

「乃梨子ちゃんは?」

お茶の準備をしていた乃梨子に由乃は聞いた。

「私はお茶の準備がありますから、どうぞお構いなく」

「そう、じゃ全員の賛成をえられたので、始めますね」

由乃はにやりと笑って、全員を見回した。

「朝、マリア像の前を女の子が素通りして行きました、それはなぜでしょう?」

 

「それがクイズなの?由乃」

いまいちよくわからない、といい顔をして令は由乃に聞いた。

「そうよ」

どうだといわんばかりの表情で由乃は答えた。

「確定要素が少なすぎるけれど…」

祥子はつぶやく。

「ぼーっとしていたとか?寝不足で」

「祐巳、これはクイズなのよ?」

妹の発言に祥子は呆れた声を出した。

「そ、そうでした…」

顔を赤くして祐巳は引き下がった。

「何か深刻な悩みがあったのよ…マリア様の前にも立てないような…」

やたらに乙女じみた推理を繰り広げようとする令。

「そのような深刻な悩みこそ、マリア様に打ち明け、祈るべきではないでしょうか?」

志摩子は令の推理に対して、ごく真面目にそう返した。

「確かに、志摩子のいう通りよね」

祥子も同意する。

「でも祥子、例えば金銭的な問題だったら別じゃないかな?」

「それはマリア様にお願いしても仕方ないですよね。」

令の反論にもっともだ、とうなずく祐巳。

「全然違うわ、みなさん」

由乃はみんなの様子をしばらく見ていたが、ここに来て口をだした。

「由乃、何かヒントはないの?」

令はみなを代表する形で言った。

「そうねぇ、でもこれはノーヒント。単純な問題ですもの」

由乃は口元にちょこんと人差し指を置いた。

「わかんないよ〜由乃さん」

「私も。マリア様に祈らないなんて……」

同学年のふたりは早くも降参してしまう。

「祥子、どう?分かった?」

令の問いかけには答えず祥子は黙って考え込んでいる。

「由乃、私も分からない。こういうの苦手なの」

「お姉さまも降参?じゃああとは祥子様だけということですね」

そこですっと祥子の手が上がった。

「由乃ちゃん、私にひとつ考えがあるわ」

「はい。祥子様何でしょう?」

やっとまともな解答が望めそうな祥子が発言することが嬉しいのか、由乃はやけに明るい声を発している。

「そのマリア像はリリアンのものではなかったのでは?」

「すごい!お姉さま!私ちっとも思いつきませんでした!!」

祐巳は祥子をきらきらと輝く目で見つめている。

「おおげさよ、祐巳」

妹を落ち着かせようとする祥子だったがその態度はまんざらではなかった。

「いいえ、さすがはお姉さまです。私お姉さまの妹でよかった……!」

「まぁ、祐巳」

周りを放って盛り上がる紅薔薇姉妹。

「そういった答えが出るのは予想してました」

水を差すように由乃は冷静な声で話し始める。

「どういうこと?由乃ちゃん」

あわや妹と抱擁…!というところまで盛り上がっていた祥子は、由乃の言葉に若干の敵意をむける。

「私の言うマリア像はあくまでも、リリアンのマリア像です。ここはリリアンだからと思っていた私が甘かったです。すみません」

ぺこりと由乃は頭を下げた。

「じゃあ、祥子は不正解ってこと?」

「そうです、お姉さま」

祐巳は気遣わしげにお姉さまを見ている。

「お、お姉さま…?」

「大丈夫よ、祐巳。きちんと正解を見つけるわ」

「はい。」

ふるふると肩を震わせたまま考え込む祥子。

 

 

沈黙がしばらく続いたところで、ふーっと息を吐く音がした。

「由乃ちゃん、降参よ」

力の抜けたような表情で祥子は言った。

「さぁ、早く正解を教えて頂戴」

負けを認めた祥子はさっさとすっきりしたいらしく答えをせがんだ。

そこへ全員分の紅茶を用意した乃梨子がやって来た。

「まぁ、最後に乃梨子ちゃんにも聞いてみましょうよ」

由乃は余裕の表情で、乃梨子に問題を説明する。

 

「どう?わかる?」

と由乃が言うと、

即座に

「こんな答えでいいのかわかりませんけど……わかりました」

乃梨子は答えた。

驚く乃梨子以外の面々。

「ちょっと待って、マリア像はリリアンのものではなかったというのは無しよ。乃梨子ちゃん」

祥子が口を挟んだ。

「あぁ、そういった解釈も考えましたけど、ここはリリアンですから、それはまず除外しました。ご安心下さい」

乃梨子は至ってクールに話す。

「……そう、ならいいのだけど」

祥子は言葉を濁した。

「乃梨子、言ってごらんなさい」

志摩子が乃梨子を促す。

黙って乃梨子は頷く。

「先ほど祥子さまにご指摘頂いたことを一歩おし進めて考えました。マリア像に注目するのではなく、女の子に注目するのです」

乃梨子は一度言葉を切った。

「つまりリリアンの生徒ではなかったから、ではないのですか?」

「!!」

全員の表情が再び強い驚きに染まる。

「そっか、乃梨子ちゃんのいう通りだよね。確かにそれならそうかも」

祐巳は感心した様子で乃梨子を見ている。

「私は高等部からリリアンですから、最初マリア像の前でお祈りするなんて知りませんせした。それに由乃さまは女の子といいましたから、お母さんに抱かれた女の子の赤ちゃん、ということもあるかもしれませんね」

と乃梨子は推理を結んだ。

「由乃、どうなの?正解なの?」

妹に尋ねる令。

「由乃?」

「……正解よ、その通り。リリアンの生徒じゃなかったからよ」

由乃はしぶしぶといった口調で正解を認めた。

「すごいよ、乃梨子ちゃん」

「えぇ、本当。よく気づいたわ」

「乃梨子、すごいわ」

祐巳、祥子、志摩子が次々賛辞を送る。

「あの、みなさん。よろしければ紅茶冷めますから、召し上がってください」

乃梨子は紅茶を皆に勧めた。

「そうだね、せっかく乃梨子ちゃんが淹れてくれたんだから、みんな飲もう」

令が皆に呼びかける。

 

 

皆がわいわいと紅茶を飲み始めるのを見ながら、乃梨子は思った。

 

これだから……お嬢様は……。

 

 

その時乃梨子の耳に志摩子と祐巳の会話が飛び込んできた。

「志摩子さんの自慢の妹だもんね」

「……えぇ」

祐巳の言葉にちょっと恥ずかしそうに、うなずく志摩子。

 

 

 

冷めていたはずの乃梨子の心は、

風船のように舞い上がって、

 

ちょっと戻って来そうになかった。

 

 

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