祥子の当惑

 

 

 

一体これは何なのかしら。

小笠原祥子は、あるモノの前で首をかしげていた。

ここは山百合会本部、薔薇の館である。祥子は今、一人で館の中にいる。誰が持って来たのかわからないが、机の上に箱が置かれていた。箱にはおそらく中身とおぼしき名前が書かれている。

 

しかし…祥子は信じられなかった。こんなモノが本当にあるのか?記載を鵜呑みにするなら、これは食べ物である。パッケージから推測するに一般に売られているモノだ。自分は多少世間知らずであるという自覚が無い程、祥子はこどもではない。しかしこれは納得できない。

 

いわゆる…ゲテモノとは違うのよね、と祥子は考えた。嫌がらせをリリアンの生徒が山百合会にしてくるとは思えない。でもこんな組合せって…。確かに甘いモノと辛いモノを合わせた食べ物は存在する、その類だろうか。中にメッセージが入っているかもしれないし、と祥子は思い切って箱を開けてみた。

 

想像していたより薄い、1つ1つ袋に入っていて小さい。祥子の予測は全く外れていた。これ…本当にこの組合せの味がするのかしら?宣伝の効果を狙った単なるネーミングだったのかも…と祥子は考え直す。改めて中身を確認するがカードは入っていない、差出人は不明のままである。開けてよかったのかしらと今更不安になる祥子だったが、ここに放置してあったということから考えれば、山百合会に寄贈されたのではないという可能性は著しく低いだろう。

 

じっと祥子は目の前の奇妙な食べ物を見つめている。さすがに味が解らないのでは食べてみる気にはなれない。祥子はどちらかといえば偏食気味で好き嫌いは激しい。下手に手をつけて食べられませんでした、というのは余りよいものではない。そう思うといっそ食べて、味を確認してしまうという最も単純な手段をやはりとることができなかった。逡巡しているとそこへ

「失礼します、ごきげんよう、お姉様。」

と妹の祐巳がやって来た。

「ごきげんよう、祐巳。」

普段と変わらぬ挨拶をする祥子だったが、やはり目の前の食べ物を目がとらえてしまう。祐巳がその祥子の視線に気付いた。

「あれ?お姉様。これどうなさったんですか?」

「私が来る前からあったのよ。じゃあこれは祐巳のものではないのね?」

祥子が聞くと、祐巳は「はい」と答えた。

「あなたはこれを食べたことはあって?」

と祥子が聞くと、祐巳は

「何度かあります。そんなに好きなものではないです。」

さらりと祐巳は言う。ということはやはりこれは甘いモノではないのだろうと祥子

は妹の好みから推測してみる。

「お姉様はいかがですか?」

と祐巳は祥子へ問い返した。

「私?私は…」

少し躊躇っているとそこへ令、志摩子、由乃が入って来た。祥子が

「ごきげんよう。3人とも一緒に来たの?」

と聞くと、志摩子が

「いえ、偶然下で一緒になりました」

と答えた。

「本当に来たんだ、聖様。」

と由乃が突然口にした。

「由乃さん、それどういうこと?」

と祐巳が皆を代表するように聞く。

由乃の話によると、来る途中シスターが少し前に聖が薔薇の館に来て、おみやげを置いて行ったことを教えてくれたらしい。

「お姉様らしい、差し入れだわ」

くすりと志摩子は笑った。

つい祥子は志摩子や由乃、令に食べたことがあるかと聞いてしまった。

「そっか、祥子はないかもね、これは。」

と令はいうとそれを1つ手に取って、ビニールをやぶき、中身をだした。由乃や志摩子も食べるようだ、令や由乃はそのまま口へ運ぶ。

「これは気取って食べるモノじゃないよ、祥子」

少し顔をしかめていた祥子に令が言う。

「見ればわかるわよ、お酒と一緒に頂くものなんでしょう?」

祥子も手にとってビニールをやぶく。そうとはかぎらないけどねと令は笑う。祥子は

決まり悪そうに、おそらく自分だけが知らなかったというのが嫌だったのだろう

.

それを口にいれた。塩気の強い味が口に広がる、かわったパイだ。これはたれの味なのでは?と思う。祥子が見たことがなく、親父趣味な聖のお土産とは

「うなぎパイ」

だったのである。

 

 

 

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