hello

 

 

 

「私、祐巳さんがすきなの」

「私も由乃さんすきだよ」

これはよくある二人の会話。ほほえましいやりとり。けれど、由乃はそのたびに溜息をついていることを祐巳は知らない。

一体祐巳さんっていくつなのよ、高校生にもなって雰囲気を察してくれないなんて…もしかしてわざと?なんて勘繰りたくなるほどに由乃は自分のきもちを持て余している。

祐巳さんはちょっと幼いところがあって、そこが魅力的だってわかっているけど。わかっているから、今日まで由乃は耐えて来た。まだ祐巳さんは幼いから、だからちょっと由乃が大人になって待ってあげよう、そう由乃は大人なんだから!

ずいぶん待った、しかし全く反応に変わりは無い。

作戦変更、由乃は勝負に出ることにした。

 

 

放課後、人気のすっかりなくなったマリア像の前で由乃は祐巳を待っている。

約束をとりつける時

「必ずひとりで来て!祥子さまにも秘密よ」

と念入れて注意して来た。たとえ祥子さまであろうとも、今日は邪魔させない。

しかし念には念を入れ過ぎて、逆に

「お姉さま?どうして?」

とつっこまれてしまったのであるが

「深刻な話なの…私たち親友じゃない…」

と真剣に訴えたところ

「そ、そうだよね。わかった、お姉さまには秘密ね」

祐巳が張り詰めた表情で『秘密』と言った。

お姉さまにも内緒、ふたりだけの秘密、

あまいことばたちは由乃を舞い上がらせる。

同時に少しの罪悪感、

純粋に親友として由乃の願いを聞き入れてくれたことに対してどこか後ろめたかった。

「でも!それはそれよ。手段なんか選んでられないわ」

大事のためなら小事を忘れられる、いやなかったことにできる。これは由乃の美点である。

 

マリア様は今日もリリアンの生徒たちを見守っている。

こんな場所で思いを伝えることにしたのは、別にマリア様を冒涜するためじゃない。

 

祐巳さんと祥子さまが出会って、契りを交わした場所だから−−

 

由乃は選んだのだ。

この場所で祐巳に選んでもらうために。

私の真剣さを理解してもらえるはず、由乃の決意は固かった。

 

 

「由乃さん」

聞こえたのはだいすきな人の声。

もう、戻れない。

口にはだせないけれど、ごめんなさい祐巳さん。

 

「祐巳さん」

振り返るといつも通りの笑顔があった。

胸が軋んだ。祐巳の笑顔の愛しさが何より胸を締め付ける。

 

「どうしたの?」

何のためらいもなく近づいてくる祐巳。

手を伸ばせば届く距離。もっとそばに行きたい。由乃は祐巳と積み上げて来た歴史を賭けて、今ここにたっている。

たったひとつ、ほしいものを手に入れるために。

 

祐巳の手首をつかむ。

あぁ、もう、

だめなんだ。

 

「私、祐巳さんのことがすきなの」

由乃は祐巳を見つめて、口にした。

祐巳はきょとんとしている。

今自分はどんな顔をしているんだろう

 

「私何かしちゃった?すごく不安そうな顔してるけど、私も由乃さんのことす…」

「ちがう!」

「え?」

「ちがうの!」

由乃はかぶりをふる。そうじゃない、伝わらない想いが悲しくて、目頭が熱くなる。

うるんだ瞳で祐巳を見上げる由乃。

祐巳の瞳に初めて動揺が宿った。

「友達としてじゃなくて、私のこと見てよ。もうつらくて耐えられないよ」

由乃の瞳からついにすっと、ひとしずくの涙がこぼれた。

祐巳はその涙にふしぎなきもちを抱いた。今までかんじたことのないきもち。祐巳は名付けられないこのきもちにとまどいながら、由乃の涙をぬぐう。

涙と一緒に弱気な表情が消えて、いつもの由乃の表情が蘇る。祐巳はほっとした。

「祐巳さんが私のことそういう風に見てなかったことくらい解ってるよ」

何と応えていいか解らず、祐巳は黙る。

「だから、見て」

由乃の強い視線が祐巳をとらえる。

「見る?」

由乃はうなずいた。

「私のこと、そういう相手として見てほしいの。そして私を受け入れて」

祐巳は応えられなかった。

「それとももう他に好きな人がいるの?」

間髪を入れずに祐巳は首をふった。

お姉さまの顔もよぎらなかった。祐巳の頭の中は、由乃の声だけが支配している。

由乃はその返答にふんわりと笑った。祐巳も笑顔を誘われたほどうれしそうな顔。

「3日後、返事をちょうだい」

「3日?!」

「短い?でもそれ以上私は待てないの。黄薔薇の習性かしら?せっかちなのは」

祐巳は考え込んでしまった。正確に言えば、3日が短いのか長いのかもわからない。頭が混乱している。

「だめ?」

由乃の目は必死だった。

ぎりぎり何かをふみとどまっているような、危うさを感じる。

「わかった」

祐巳は初めて、強い意思をもって返事をした。

場の空気に流されていたが、それではだめなんだと混乱する自己を押し止める。

「私ふられる気ないから、覚悟しといて」

にこやかに、しかし不敵に笑った由乃。

 

マリア様の前、祐巳と由乃は向かい合っていた。

交わす視線は今までとは全く別物の何か。

 

 

 

……the 0th day is end.

the first day coming soon.

 



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送