桂さんの山百合会体験記

 

 

 

お姉さま、私は、山百合会のお手伝いに行くことになりました。部活も休みでし

たし、1日だけでいいということで引き受けたのです。

部活の仲間の反応も大きくて。私が

「山百合会にお手伝いに行く」

といったところ

「うらやましい」

の大合唱でした。

やれ

「〜さまの写真がほしい」

やれ

「〜さまのサインがほしい」

なんて言うのです。

気持ちは解りますが、あくまで私はお手伝いで行くのですから、すべてお断りし

ました。お姉さまが目を輝かせながら、何かを我慢していたのを知らない訳ない

ですもの。え?そんなことは知らない?……えぇ、わかっておりますわ。あぁ私

の勘違いでしたのね?あれはオペラグラスか何かだったのでしょう?レンズはひ

とつでしたけれど…

しかし皆さん中々引き下がってくださらなくて、私この時祐巳さんの気持ちが少

しわかりましたわ。大人数に攻め立てられることの辛さが…反省しました。

私は皆が出して来た代替案を飲むことになりました。それは皆が常々「確かめて

みたい」と言っていたことを確認してくることです。ちょっと潜入調査みたいで

どきどきしますでしょう?その結果をお姉さまにはこうしてお知らせすることに

しました。

 

 

「やだ、そんなに緊張しないで、桂さん」

「祐巳さんのお手伝いをすればいいのよね?そうなのよね?」

私、緊張していて、祐巳さんの制服を握ったまま薔薇の館の階段を昇りましたの

。祐巳さんはどうしてこんなに落ち着いていられるのでしょう?不思議でした。

館の扉が開かれました。どのような世界が広がっているのでしょうか?遠い世界

だったはずの薔薇の館がもう目の前です。

「あれ?誰もいないや」

ほっとした反面、気が抜けてしまいました。現実なんてこんなものでしょうか?

自己紹介の練習までしてきた自分が恥ずかしいです。

「桂さん、桂さん」

「あ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって」

「あのね、私行かなきゃいけないところがあるから、留守番していてくれない?」

「え?」

「誰か来たら用件を聞いておいてほしいの」

「そ!そんな、祐巳さん〜ひとりにしないでよ!」

とんでもないことです。ひとりで薔薇の館にいるなんて…

「だいじょうぶだよ〜」

何の根拠があるのか、にこにこ笑っています。事の重大さを本人は理解してくれ

ていません。

「あ!もしかしたら美術部の人が書類とりにくるかも。そしたらあの机の上の青

い封筒を渡してあげて」

言い終わるか終わらないかのところで、祐巳さんはさらりと私のすがる手から逃

れて、扉の彼方へ消えてゆきました。あぁ、私も現実へ帰りたい。未知の世界と

はこんなに心細いものでしょうか?お姉さまを心で呼び続けました。

扉が開きました。私はお姉さまが来てくださったのかと思ってしまいました。

「あのー美術部なんですが…」

「は!はい」

「書類を…」

「書類?」

私は、よほど混乱していたのでしょう。頭が真っ白でした。

「出直しましょうか?」

美術部の方は気遣わしげに私を見ています。

「い、いえ。しょ書類ですね」

私は机の上をばさはざと探しました。

どさっと何かが落ちました。しかしあとから拾うことにして封筒を探しました。

「あ、ありました。これです、どうぞ」

「ありがとうございます、お手伝いの方ですか?頑張って下さいね」

「はい、頑張ります」

やはり御礼を言われるのは嬉しいものです。少し落ち着くことができました。

さっき落としたものを拾おうとすると…

「こ、これは…!」

そう確かめなければならないものが目の前にあったのです。

「…2冊ある」

確かめたかったこと、それは令様と由乃さんの愛読書。ファンとしては何とか同

じ本を読んで、いつか機会があったときに話してみたいらしいのです。

「そっかふたりの鞄から…カバー外してもいいよ、ね?」

どきどき…

がんばるのよ!勇気をだすのよ私!!マリアさまどうかお許し下さい。

『燃えよ剣』

『世界の中心で愛をさけぶ』

…わかりやすい、わかりやすいわ。

みんなに教えてもらった鞄の特長に合わせて本を戻す。完璧だよね、ばっちり。

「桂さん、ただいま〜」

「祐巳さん、おかえりなさい!」

慌てて、机の上を整理するふりをする。

「ごめんね、留守番させちゃって。ちょっと運ぶものがあるからきてもらえる?」

「うん」

この後は祐巳さんの力仕事につきあって、薔薇の館に入ることはありませんでし

た。もっといろんなところを見ておけばよかったです。

けれどやはりこんな経験は一度で充分です。私はやっぱりお姉さまと一緒にテニ

スをしているのがいちばんです。

みんなからの希望も1つは確認できましたしね。面目も立ちました。よかったで

す。だからお姉さま、そんな目で見ても何もでませんから。気がきかない、なん

てひどいです!

 

 

後日談

「令さま、新撰組の中では誰がお好きなの?」

「え?」

「由乃さん、世界の中心で愛をさけぶは感動しましたよね?」

「え?」

 

 

 

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