hello(1st day)

 

 

 

「…から電話よ」

祐巳はお母さんの声で目を覚ました。

「誰?」

「島津さんから」

「由乃さん!?」

な、何でだろう?

昨日のことかな?

今日は日曜日、祐巳は昨日由乃の告白に関して頭がぱんくしそうなくらい悩んで眠りについた。今日は落ち着いて考えるつもりだったが…

一体何だろう?

返事の催促?

3日後じゃなかったのだろうか?

「あまり待たせたら悪いから、早く出なさい」

「…はい」

祐巳はおそるおそる電話を受け取ると受話器に口を近づける。その様子を不審げに見ながらお母さんは祐巳の部屋を出て行った。

「もしもしー?祐巳さん?」

「うん。由乃さんどうしたの?」

由乃のえらく弾んだ声に祐巳は何だかついていけない。寝起きのせいという可能性は低いだろう。

「あのね〜今S駅にいるの〜」

確かにざわざわと音がする。公衆電話からかけているみたいだ。

「でね、今から来て」

「へ?」

「待ってるから〜」

「ちょ、ちょっと由乃さ」

 

がちゃん

電話…きれた…

 

「えぇ〜!どうしよう。S駅?」

祐巳はわたわたと部屋の中を歩き始めた。

ゆっくり考えたかったのに…断る隙もあたえられず切られた電話を恨めしげに見つめ

る祐巳。

「し、知らないもん。私行くなんて行ってないもん」

祐巳は答えの返ってくるはずのない電話に話し掛けている。

 

でも、

祐巳が行かなければ、由乃はひとりずっと駅で待っていることになる。

祐巳の脳裏に見えるはずのないものが見えた。

由乃が改札で祐巳を探している様子が…

 

「…いこ」

祐巳は迅速に準備を整えると、あさごはんも食べずに家をでた。

一体由乃さんはどのくらい待っているのだろうか?祐巳は何が待ち受けているのか不安なままS駅を目指していた。

 

 

今日の勝率は8割。

由乃は電話を切ったあとそんなことを考えていた。

「祐巳さん怒ったかなぁ」

由乃は2割の不安を口にする、半ば勝利を確信しながら。

祐巳さんはきっと来る。私を放っておくのはできないだろうから。由乃は鞄から文庫本を取り出して読み始めた。

 

 

「着いた」

ホームから祐巳は、急いで階段を駆け降りる。

まさか帰っちゃったってことはないよね?

大丈夫だよね?

祐巳は問答無用で呼び出されたことも忘れて焦っていた。

改札をでると柱のところに由乃さんが背を傾けているのが見えた。

声をかけようとしたその時

「祐巳さん?」

突然由乃が振り返った。

「う、うん。由乃さん」

「どうかした?」

「何でもない。ごめんね、待たせちゃって」

祐巳の言葉に由乃が目を丸くしている。

こういうのなんていうんだっけ?

そう、鳩が豆鉄砲くらったみたいな…

「あははは〜」

「何で笑うの?」

祐巳は突然笑い出した由乃さんを訝しげに見ている。

「だって私が勝手に呼び出したのに、何で祐巳さんが謝るの?」

「あ…」

「私が謝ろうと思ったのに、祐巳さんてば」

「そうだった」

祐巳は自分の決して多くない記憶容量が嫌になった。

けれど由乃があんまり笑うから、祐巳も何だか楽しくなってしまった。

「あはは、おかしいよね」

まぁ、いいか…

祐巳の中で自然と決着が着いてしまったのだった。

「由乃さん、どうして私を呼んだの?」

祐巳がそう聞くと、由乃はにっこりと微笑んでこう言った。

「あいたかったから」

「…それで?」

「だからあいたかったの」

祐巳は訳が解らなくなってしまった。

「そ、それだけ?」

「だって来てくれないかもしれなかったじゃない?」

「それはそうだけど…」

由乃は言い淀む祐巳をのぞきこんだ。

「でも来てくれるって信じてたけどね」

真っすぐな好意に祐巳はなんだかどきどきしてしまった。

祐巳が押し黙っていると、すっと由乃が手を繋いで来た。

「よ、由乃さん?」

「せっかく祐巳さんが来てくれたんだもの。どこかいきましょ?あ、お腹すいてない?」

「すいてる、朝食べてないから」

「わ、じゃなんかすぐ食べよう」

 

 

祐巳と由乃は公園でサンドイッチを食べていた。

「さすが日曜だね、どこも混んでる」

由乃はツナサンドを食べながらつぶやいた。

「公園もカップルだらけだねぇ」

何の気無しに祐巳はそんなことを言う。

カップルという単語に反応してしまうなんて気にしすぎだと由乃もわかっているけれど、祐巳は全く何とも感じないなんてさみしかった。

 

もう少し意識してくれたって…

 

由乃は言葉に出来ない愚痴を心の中でこぼした。

 

ふと由乃が祐巳を見ると、最後に残して置いたと思われる生クリームいっぱいのフルーツサンドに取り掛かっている。

赤いいちごが入ったフルーツサンドがなんだか似合っている。

 

かわいいなぁ…

と小さくつぶやいた。

私、のうみそ溶けてる…

と由乃は思う。

 

「ん?何か言った?」

聞こえてしまったのか、祐巳は由乃を見ている。

その時由乃は祐巳の頬に、生クリームがちょこんとついているのを発見した。

「ついてるよ」

「え?」

「ここ」

祐巳の頬についた生クリームをぺろっと由乃はなめとった。

「ふぁ!!」

祐巳が真っ赤な顔をして、不思議な声を出した。

「あまーい」

由乃の口の中にふんわりあまい味が広がる。

「自分でとれるよ〜!」

 

少しは意識してよね…

 

由乃は祐巳の抗議を聞き流しながら、少しそのあまさに酔っていた。

 

 

 

その後も由乃は祐巳と手を繋いで町中を連れ歩いた。

いつもはできない独り占めで、由乃はこの時間がずっと続けばいいと思った。

嬉しくて嬉しくて、日が落ちるのを本気で疎ましく思った。

 

もう少しだけ…

このひとといさせて…

 

 

 

祐巳と由乃は駅で別れることになる。

「今日はごめんね」

「ううん。あの、由乃さんあの…」

祐巳が困った顔で何かを話そうとしている。

「今日は楽しかったね」

「え、うん」

「じゃ、それでいいじゃない」

由乃は祐巳を今日そのことで困らせる気はなかった。できたら楽しい思い出を持ち帰ってほしい、由乃と同じ様に。

「うんっ」

ほっとしたように祐巳は笑った。

由乃も安堵の表情を浮かべる。

そしてふたりはさよならを言って別れた。

 

 

祐巳の頬には忘れられない感触が残り、電車の中で思い出すたびに赤面していた。

 

由乃の口にはもうしないはずのあまさが、何度も蘇っていた。

 

 

 

The  1st day sweet date− is  end.

2nd  day  is  coming  soon.

 

 

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