hello2ndday

 

 

 

祐巳は晴れ渡る空にも気付かず、下をむいたまま歩いている。

昨日はたのしかった。

何も考えないで、ただ目の前の由乃さんとすごす。

あんなことがまたあったらいいなぁと思っている。

 

けれど、由乃さんは

待っているのだ、自分の返事を。

それを思うと祐巳は一歩も動けなくなってしまう。

本当に答えなんて出せるんだろうか。

マリアさまは今日も慈悲深く祐巳を見下ろしている。

−マリアさま、私はどうしたらいいのでしょう。

 

いつもより長いお祈りは、返ってくるはずのない返事を、待っているから。

 

 

 

長いわね。

由乃はマリア像の前に立つ祐巳を、後ろから仁王立ちで見ている。

目立っているのだが、指摘する者はいない。

全くわかりやすいんだから祐巳さんは。

どうせマリアさまに問い掛けながら、自問自答しているにちがいない。

…自分の事を。

 

…わかっていたこと、後悔なんかしていない。

けれど祐巳の悩む姿に胸が痛むのはまぎれもない由乃のきもち。

今の私は祐巳さんを慰める権利すらないんだわ…

由乃はそれがただ、悲しかった。

 

とにかくああしていつまでも立っているのを、放ってはおけない。由乃は小さく

気合いを入れて、祐巳に突進していく。

「ごきげんよう、祐巳さん」

祐巳の身体がびくっと反応する。

「ご、ごきげんよう、由乃さん」

「遅刻するわよ」

由乃は腕をつかむと。そのままずるずると祐巳を強制連行していく。

「わ、わ」

「連れていってあげる、感謝してね」

「ひ、ひとりで歩けるから」

「あぁ良いお天気、ねぇ?祐巳さん」

「聞いてない〜」

 

傍目にはリリアンの女生徒のじゃれあいにしか見えなかっただろう。

 

 

 

放課後、山百合会では会議が行われている。ただの茶話会ではないが、まだまだ

先の話なのでゆったりとしたムードである。

「祐巳、あなたどうかして?」

お姉さまにそう問い掛けられていたが、祐巳は全く気付いていない。

「…祐巳?」

「あ、すみません、お姉さま、何でしょう?」

どこかうわの空で反応する祐巳。

「今日は何だか心ここにあらずといったかんじね」

怒ることなくお姉さまは苦笑している。

「そうですか?そんなことは…」

ある。

実は祐巳は、由乃が視界に入るだけで照れてしまうのだ

昨日のことを思い出す度に訳の解らない恥ずかしさに襲われて、授業中に赤面し

てしまったりして、何とか別のことを考えようと必死になるから、必然的に他の

ところに気を配れなくなってしまう。

結果、周りからは1日中うわの空に見えているのである。

 

 

全く何だって言うのよ。

由乃はミルクたっぷりの紅茶をリリアンのお嬢様にあるまじきスピードで飲み干

すと、音をたててソーサーにカップを置いた。

「よ、由乃?」

「何?」

「…な、何でもない」

令が理由を聞くのを憚るほどに由乃は不機嫌だった。聞いたところで答えたかど

うかは、一目瞭然であるが。

何故か祐巳は、今日由乃と目を合わせてくれない。はっきり言ってさけられてい

る。

そんなに私のこと迷惑なの?

由乃は沸き上がる弱い気持ちに負けそうになっていた。

極めつけに、さっきからやたらに祥子さまが、祐巳さんに話し掛けているのも気

に食わない。全部気に食わない。

早い話がこれは嫉妬。

祐巳に

無条件に好かれている祥子さまが、羨ましくて仕方がないだけなのだ。

 

言えば少しは楽に

なるかと思っていたのに。

遠慮せずに好意を

表に出せると思っていたのに。

 

本人に避けられるなんて、そんな展開ひどすぎる。

 

祐巳さんのばか

 

頬杖をついて、由乃は祐巳と祥子を睨んでいた。

 

 

 

「ねぇ祐巳、あなた何か悩みがあるなら言ってごらんなさい」

「な、ないですよ、悩みなんて」

祥子は、祐巳をじっと見ている。

「ほんとです」

さすがにお姉さまでも言えない。祐巳は変な事を口走らないようにそれだけ言う

と沈黙した。

「そう」

ちょっとお姉さまが淋しそうに笑う。けれど祐巳は口をつぐむしかなかった。

「でもね祐巳」

次の瞬間すっと祥子の手が祐巳の頬に触れた。

祐巳は誰が見てもわかるほど顔を赤面させた。

皆がそれに気を取られているとき、由乃は館を出て行ってしまった。

 

 

 

頭を冷やして、由乃は館へと戻ってきた。暮れなずむ景色がやけにやさしく見え

て、自分はなんて感傷的になっているんだろうと思う。

「みんな、もう帰ったよね」

由乃はビスケット扉を無造作にあけた。

そこには馬鹿みたいに立ち尽くして

由乃を待っている

由乃が待っていた

人がいた。

 

「由乃さん…」

「どうして…?」

「私のせい?」

 

 

静寂が薔薇の館を包んでいる。

 

 

「祐巳さんのせいよ」

由乃は祐巳を無我夢中で押し倒す。

祐巳は何が何だかわからず呆然としている。

「どうして祥子さまには触られただけであんな風になるのよ」

「それは…!」

反論しようとする祐巳の口をふさぐ。

何にも聞きたくない。

「どうして私を見ようともしないのよ」

頬、口、瞳、

由乃はあふれるきもちのままにキスをふらせる。

とどまることなく、

そのきもちはふくれあがっていくのを感じる。

終わらないような気がして、

由乃は目眩を覚えた。

 

あなたはどうしてそんなに綺麗なままなの…?

 

ひたすらにとまどう祐巳を由乃は見つめる。

 

自分だけがこんな姿で、

悲しくて、

涙が止まらない。

 

「今だけは、私しか見えない」

 

由乃はただ触れるだけのキスを子供の様に繰り返す。

 

「すきなの…」

 

 

悲痛なそのつぶやきに応える者はなく、

ただ落ちる涙が、祐巳の頬を濡らしていた…

 

 

the 2nd day  is  end.

The last day  coming soon.

 

 

 

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