hellolast day

 

 

 

「ごめん…」

 

 

祐巳は目を覚ました。夢。まぶたに残るのは、昨日祐巳が最後に見た…肩を落と

し、つぶやくように謝った由乃の後ろ姿だった。なんだか消えてしまいそうで、

つかまえなくちゃって思ったのに、あんなに近くにいたはずの由乃がその時遠く

で自分を拒絶しているように見えた。

何もできないまま、祐巳は由乃が出ていくのを見ていた。

 

 

今日は答えを出す日。

祐巳の心は決まっていた。

 

 

 

先生の声は、祐巳の中で意味を成さないまま右から左へ通過していく。

困ったな…

何て言えばいいんだろう…

それにいつ、言えばいいんだろう…

 

気付くと一昨日の由乃との楽しかった思い出が蘇ってくる。

そしてあの生クリームの跡が恥ずかしくて、祐巳は何度も机につっぷす羽目にな

った。

 

そして…

昨日の由乃の姿が頭を過ぎる。

あんなに強く責められたのに、祐巳が知る中でいちばん弱々しい由乃を見た気が

した。

ぼろぼろに泣きながら、まるですがりつくかのように繰り返されたキスは、

哀しい味だった。

 

 

 

 

島津由乃はまるっきり腑抜けていた。昨日の自分の行動を思い返すとどうしよう

もない後悔に襲われてしまう。だから忘れたふりをして、なんとか自分を守って

いる。

 

自業自得。

 

何とか自分を見てほしくて、私のことで頭をいっぱいにさせたくて、

休みの日に

あんな強引な方法で祐巳を呼び出して

引き連れ回した。

最初は怒って帰っちゃったらどうしようかと思っていたけれど、

たくさん笑ってくれた。

ちょっとした悪戯に真っ赤になる祐巳は、由乃だけの思い出。祐巳の感情を動か

せることがただ嬉しかった。由乃にむけられる感情がとても心地良い、その相手

が、祐巳であるかぎり。

 

けれど一昨日がしあわせすぎたのかもしれない。

だから祐巳さんが祥子さまの妹なんだって思い知らされることに由乃は耐え切れ

なかった。

自分で思うよりずっと、自分の心は不安定だったんだろう。

いつもなら笑ってがまんできたのに、昨日だけはだめだった。

一度取っ払ってしまった枷は機能するはずもなく、由乃の中のきもちは乱暴なほ

どストレートに流れ出した。

無数の涙のしずくは

あなたを思ってきた長さの分だけあるのだと

伝わればいいのに。

どんなにキスを交わしても、気持ちが一方通行なら

そんなのただの空しい接触。

気持ちなんて伝わるはずもない。

 

ただの押し付け、嫌われても文句はいえない。

話すのが怖い。

今日は最後の日、由乃が望んで決めた、日。

 

 

 

祐巳は由乃から呼ばれるのものだと思ってずっと待っていたのだが、何も起こらな

いまま、放課後を迎えてしまった。

しびれを切らした祐巳は自ら由乃を探し始めた。

校舎内をぐるぐるとあてどなく回る。

誰か見た人はいないか、と聞いて見るものの、ほぼ反応は見られず

「令さまに聞いてみたら?」

と言われたけど、さすがにそれは憚られた。

 

私がはっきりしないから、呆れちゃったのかな…

 

そんな自分の想像に、慌てながら由乃を捜し求めて歩いた。

 

ふと窓の外を見た。

 

祐巳は一も二もなく走り出した。

 

 

 

 

「由乃さん!」

祐巳は由乃の後姿を見ると声をかけた。

見つかるはずがない。由乃さんは外をふらふら歩いていたのだ。

しかし由乃さんは振り返って、祐巳に気づいたかと思うと猛然と走り出した。

「よ、由乃さん!?」

どうして逃げるんだろう?誰かと勘違いしているんだろうか?

「由乃さん?私だってば」

「解ってるわよ」

大声で返してくる。

「どうして逃げるの?」

由乃さんは何も言ってくれない。

仕方がない、きっと由乃さんになら追いつけるだろう。

祐巳は無言でダッシュした。

 

 

あと少し、祐巳は手を伸ばす。

後ろから祐巳は、由乃の手をとった。

「きゃ」

「捕まえた…」

由乃さんがすきあらば逃げようとするので、無理やりこちらを向かせる。

観念したかのように、由乃さんはためいきをついた。

「どうして、逃げるの?」

「…」

「わたしのこと…あきれちゃったの?」

祐巳は心が痛んだ、こんなこと言いたくないのに。

「そんなこと…!私、嫌われたかと思って…」

由乃さんの目は潤んでいた。

 

祐巳は今気づいた。

ここは始まりの場所だ。

マリア様が祐巳を見ている。

…マリアさま、私は、この人を…

 

 

祐巳は震える自分の手を感じながら、由乃のくちびるに、自分のくちびるを軽く重ね

た。

 

由乃は、あの休みの日の

豆鉄砲をくらったような顔をしている。

祐巳から笑いかけた。

 

「キス、しちゃった…」

 

由乃さんの顔がかーっと紅くなっていく。

 

「ど、どうして?!」

「だって由乃さんのこと好きだから」

「うそ!」

「うそじゃないよ」

由乃は祐巳に再び背をむけてしまう。

「祥子さまに触られて赤くなってたじゃない」

「それは…由乃さんが……」

由乃がちらっと祐巳を見ると、顔を赤くして口をぱくぱくしている。

「それは私が何なのよ?」

「よ、由乃さんが…」

「はっきり言ってくれないとわかんないよ」

由乃は焦れた口調で、祐巳を問い詰める。

祐巳はキッと由乃を睨んだ。

「由乃さんがなめたところだったからだよ!」

祐巳は誰かに聞こえてしまうのではないかという大声を発した。

由乃は祐巳の思いもよらない発言に振り返り、祐巳をなだめようとする。

「祐巳さん、落ち着いて…」

しかしそんな由乃の言葉など気にする様子もなく、祐巳は言葉を続けた。

「由乃さん、私が説明しようとしてるのに、ぜんぜん聞いてくれないし…」

昨日の自分を思い出して由乃は沸騰しそうになる。勢いとはいえなんてことを

してしまったんだろう。

「私、由乃さんが泣いてるの見て、ショックだったんだから」

「祐巳さん…」

祐巳はこれ見よがしにため息をつくと、再び言葉をつないだ。

「ここで由乃さんに告白されたときから、他の人のことなんて考えられなかった

んだよ?」

祐巳は苦笑いを浮かべている。

由乃はひたすらに固まっている。何か言葉を話す余裕なんてない。

「休みの日、突然呼び出されたのに、結局由乃さんをほっとけないって思って行ったし、帰

ってたらどうしようって不安だったし」

祐巳は何でもないことのように気持ちを語る。

「昨日のこと、ほんとにショックだったんだよ?私、由乃さんに何か言ってあげたかったのに、私のこと、二度と見ないようにして帰っちゃうし」

 

 

由乃は、体の中に満たされていく、甘いことばに、

あの生クリームより、

昨日のキスより、

さっきのキスより、

ずっとしあわせを覚えた。

 

 

「私、祐巳さんのことすき」

由乃はもう一度マリア様の前で、祐巳に告げた。

いつも伝えてきたのに、一度も正確に伝わらなかった思い。

「私も、由乃さんのことすきだよ」

祐巳はすこし赤い顔で答えた。

 

初めて、由乃の思いが

通じた瞬間だった。

今までとは違う刻。

 

 

 

ふたりの影が重なる。

きっとマリア様も見ないふりをしてくれただろう。

 

 

 

 

the last day is end.

but, life is going on.

the new days is coming soon....

 

 

 

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