calling

 

 

 

眠れない夜がある。

途方も無くさみしい、暗闇に癒されることもなく、光にはおしつぶされそう。

この世に私の居場所なんてないような気がして、自分の部屋なのに居心地の悪さ

を感じる。

違和感が支配する私の世界。

彼女が消えた世界に私は生きている。

結局人は始めたことは簡単にやめられなくて、だから生き続けてるんだろう。

 

 

電話が鳴った。

受話器をとる。

世界と繋がるんだろうか?

「もしもし、佐藤です」

「も、もしもし、私リリアン女学園の福沢祐巳と申しますが、せ、聖さまはご在

宅でしょうか?」

おかしくなる程震えた声である。

「祐巳ちゃん、私だよ」

「白薔薇さまですか?よかったです」

電話の向こうの百面相が見えたらいいのにと聖は思った。

「どうしたの?わざわざ家に電話だなんて。ちなみに愛の告白なら24時間受け付

けてるけど?」

「ち、違いますよ〜」

いちいち慌ててくれる祐巳ちゃんがかわいらしい。

「なーんだ、その気になったらいつでもどうぞ。さて御用件は?」

「あ、えっと今日山百合会で配られた資料のことなんですけど…」

どうも記入方法がわからなくて、電話して来たらしい。

「ううん、違うよ。そこはね…」

「はい……はい…」

メモをとりながら聞いてるみたいだ。

かなりたどたどしく、ゆっくりとした早さで返事が返ってくるけれど、

そこには一定のリズムがある。

 

 

優しい響き…

受話器を耳に当てたまま、まぶたを閉じた。

そうして君の声はすべてを許してしまうの?

この世界に私を留めるのは君の存在。

 

 

「白薔薇さま?白薔薇さま?」

「あ、あぁ、ごめんね。ちょっと」

「これで全部です、ありがとうございました。もしかして眠いんですか?すみま

せん…」

「違う違う、むしろ眠れないことの方が多いから」

言った後に後悔した。言うんじゃなかった。

「え、聖さま眠れないんですか?」

ほら、声が曇った。やさしい祐巳ちゃん、こんなこと君は知らなくていいのに。

「そう、毎日祐巳ちゃんのこと考えちゃって眠れないの〜」

「そんなことばっかり言ってると志摩子さんに言いつけますよ」

冗談だと思ってくれたみたいだ、よかった。

どんな言葉も君が言うなら素敵なことばになる。いつまでも君はそうしていてほ

しい。

「いいよ、祐巳ちゃんがそうしたいなら」

沈黙する祐巳ちゃん、反応が真面目だ。

「…いいんですか?」

珍しく反撃に転じようとしている。まぁかわいいものである。

「いいよ〜」

引き下がってあげてもよかったけど、もう少しいじわるしてみる。

「…うー白薔薇さまのいじわるっ!絶対言いませんからっ」

君がそうやって呼んでくれると、自分にはなじめないと思っていた『白薔薇さま』

というのも悪くないと思えるから不思議だ。

「別にいいのに、志摩子と私はそういう姉妹なのよ」

「それは…そうかもしれませんけど…私がいやなんです…」

とても普通で、とても素直。

希望に満ちた日は上り、包むような夕暮れがやさしい明日を約束してくれる。

そんな、変わることの無い日常を君は私に感じさせてくれる。

「わかった、わかった」

祐巳ちゃんは不満げな息をはいたが、まぁ納得してくれたらしい。

「あ、白薔薇さま、すみません、長々と」

「ううん、気にしないで。ずっと話していたいくらいだから」

そう、これが私の本音。

君の声が頭の中でリピートしている。

子守歌の様、

今日は良い夢が見れそうだ。

「ありがとうございました、それじゃおやすみなさい」

「はい、どういたしまして。おやすみ」

通話を切ろうとしたその時だった。

「あの!白薔薇さま!」

「え?」

「あの…眠れない時はまた…電話しましょう…?

 そ、それじゃ失礼します」

ぷつっと通話が切れる。

 

…その気もないのにそんなこと言わないでほしい…

君を想う気持ちが溢れて、どうしていいかわからなくなってしまう。

それなのに世界はいつもよりやさしくて、もう暗闇も光も私を責めたりしない。

 

 

口元の受話器、

切れた回線、

もう、

聞こえないのなら、

 

どうか許して

 

 

愛しているの…

 

 

「祐巳…」

 

 

 

君の名を呼ぶ。

 

 

 

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