Addictied  to…….

 

 

 

面白い。

私にとってこれ以上の賛辞はない。

だから彼女は私にとって今最も魅力的な人物に外ならない。聖や祥子がやたらに

かまうから中々接触する機会がないけれど、決して諦めているわけではないのだ。

そのおかげか、マリアの思し召しか、最近祐巳ちゃんをお昼休みによく見掛ける。

江利子はここぞとばかりに祐巳をつかまえるようになった。

 

「祐巳ちゃん」

「あ、ごきげんよう、黄薔薇さま」

ぴょこんと揺れるツインテールがほんとにかわいらしい。かわいらしさとは一概

に顔の造作の良さでは決まらないということが祐巳ちゃんを見ているとよくわか

る。

「最近よく会うわね」

「そうですね、黄薔薇さまとはあまりお話しする機会がなかったから嬉しいです」

こうもストレートに好意を示されるとちょっとどうしていいか解らなくなる。

聖や蓉子は私のことを嫌ってはいないけど、つきあいが長いせいか腹の探り合いみ

たいな会話になってしまう。それはそれで退屈しないのだけど、たまには素直な

相手を求めてしまうのはそんなに不自然なことだろうか?

 

しかし生来の癖というのか私の困った一面がむくむくと頭をもたげてくる。

「ねぇ祐巳ちゃん?」

「はい?」

やたらにまぶしい笑顔を振り撒かれるとどうしてもその顔を…困らせたくなる。

「祥子とはどこまでいっているのかしら?」

顔が紅くなることを期待したのに、祐巳ちゃんはただ首を傾げただけだった。

「どこまで…ですか?あんまり遠くへはいったことないですね、駅くらいです」

 

カチューシャがずれるか、と思う程江利子はショックを受けた。

そんなお約束な反応を返してくるなんて、むしろ江利子自身が困ってしまう。

 

もっと直接的な発言をしてやろうと思ったその時に、予鈴のチャイムが鳴った。

残念。

 

「それじゃあ、失礼します」

「またね、祐巳ちゃん」

何事もなかったかのように去ってゆく祐巳を見送りながら、江利子は明日の計画

を頭の中でシミュレートしていた。

 

 

しかし、その計画の出番は中々やって来なかった。一時期あれほど頻繁に通り掛

かっていたのにも関わらず、全く寄り付かなくなってしまったのだ。

一体何があったのだろう?

相変わらず山百合会にはきちんと来ているのに。

そんなに試したいのならその場でやればいいと自分でも思うのだが、どうしても

2人きりの時にやりたかった。

あまりにも退屈なので由乃ちゃんをからかって遊んでおこうかと思ったけれど、

令が何かを訴えるような目で見るのでやめておく。

不思議なことに令をいじめたり、どうにかしてやろうという気には全くならない。

令が可愛くないとか、そんなことはなくて、もちろん可愛いのだけど…やっぱり

妹というのは特異な地位をしめるもののようである。

そんな江利子らしくない、欲求不満の日々がしばらく続いた。

 

 

さらに数日後、祐巳ちゃんの現れないお昼にも慣れ、怠惰な時間を過ごしていた。

そんなの慣れたくなんかなかった、江利子は飲んでいたジュースの紙パックを綺

麗にたたんで、つぶした。

こんなことやりたい訳じゃ無いのよ……

どうして、私はこんなことしているのかしら?

会いたいなら、会いにいけばいい、いつだってそうして来たのに。

ただこうして思考を彼女にうばわれたまま、時間を過ごすことが嫌じゃない。

まだるっこしいのが大嫌いなのに、我慢することで何かを得ようとしている

以外に自分がこんな風になるなんて思ってもみなかった。

 

 

江利子は気分転換に廊下に出てみることにする。

もしかしたら誰かに会えるかもしれないし、こんな気分のときは令が良い。

変わらない優しさをもつあの子を見ていれば、こんな妙な私はいなくなるかも

しれない、と淡い期待を抱いていた。

 

ほんとにらしくない。

 

あまり人気のない方へ歩いていく、当然令になんて会えるはずも無くただ歩く

だけ。

しかし江利子の耳に聞きなれた声が飛び込んで来た。

「あー祐巳ちゃん」

「ぎゃ」

聖と祐巳ちゃんだ。

出て行けばいいのに、私の足はそこでぴたりと止まってしまった。

何故だかわからない。

気になるのに、見たくない。

何?その感情。

覗き見なんて趣味がよくないけど、廊下でいかがわしい真似は、いくら聖でもし

ないだろう、なんてらしくない言い訳を自分の中で繰り返す。

っていうか、どうしてそういう言い訳になるかな?

自分の中にそういう気持ちがあるからじゃないの?

なんてありきたりな詰問が頭を過ぎった。

目の前のふたりはいつも通りにじゃれているだけで、全く色気めいたところはない。

背後から聖に抱きつかれている祐巳ちゃんは、そんなの意味あるの?と言いたくな

るような抵抗をしているだけだ。

今度私もやってみよう、と心に決めて江利子はその場にもうしばらくとどまってみ

ることにする。

だって祐巳ちゃんの表情にまだ未練があったのだ。

その時だった、

聖は頑張って離れようとする祐巳ちゃんの首元に顔をうずめた。

とても、いとおしそうな表情で。

あんな聖の顔は見たことが無かった。

きっと誰にも見せない。

祐巳ちゃんにさえ見せず、

聖自身ですら気づいていないかもしれない、その顔。

 

江利子はすっと一歩踏み出した。

「聖、昼間から何やってるの?」

「江利子」

「黄薔薇さま」

二人がほぼ同時に私を呼んだ。

「珍しいわね、こんなとこで」

聖にも気づかれていなかったようだ。良かった。

緩んだ聖の腕から祐巳ちゃんはいそいそと出て行く。

「祐巳ちゃんは抱き心地が良いからね、一日一回祐巳ちゃん抱きだよ」

嘘。

そんな気持ちで抱きしめてたんじゃないって、私にはわかってしまった。

「江利子もどう?」

おそらくいつもの軽口のつもりで言っているに違いない。

「そうね、じゃ遠慮なく」

聖が意味を把握するより前にぎゅっと正面から、祐巳ちゃんを抱きしめる。

「ふわっ」

私に抱きつかれるというのは祐巳ちゃんの中の予測には全くなかったらしく、特にこ

れといった抵抗もなく腕におさまっている。

聖もやっと状態を飲み込んだのか、驚いた顔をしている。

 

 

ねぇ、聖?悪いけれど

彼女はあなたにもあげない。

私のこころは、この腕の中の小さな女の子が持っていってしまったから。

 

 

 

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