for mysister

 

 

 

「随分あの娘に構うんですね」

祥子が脈絡のないことを言うのは珍しい。蓉子は祥子の言葉の真意を探る。祥子

は頭が切れるからたまにひとっとびで結論を口にするけれど、相手がいる時はき

ちんと伝わるように話す。

つまり、わざとこうした言い方をすることによって気付いてほしい何かがあると

いうこと…

私が何を言ったか気になるということだろうか?

「あの娘って…誰?」

「福沢祐巳のことです」

わざわざフルネームで言わなくてもいいのに、怒りっぽいと言おうか何と言おう

か。

「祐巳ちゃんね、あの娘かわいいじゃない」

「私はかわいげのない妹ですものね」

今日の祥子はやたらにからむ。賭のことで多少苛立っているようだ。

「あら、そんなことで拗ねるなんて、祥子にもかわいいところがあるのね」

不機嫌に黙りこくる祥子。蓉子はそのまま言葉をつなぐ。

「祐巳ちゃんはね、素直なところがいいわ」

恐らくは祥子に最もたりないものを持っている。わかったような気にならない。

完全に理解できないものを理解できていないと認識して、それを口にできる。

それでいて非常に祥子と似たところもある。いつも実際の気持ちの半歩手前でし

か表現しようとしない。

「私は素直じゃありませんものね」

「最近は良い傾向が見られるわよ」

祥子が顔を背けながら、こちらを窺っているのがわかる。最初はこうやって拗ね

たような発言をすることすらなかった。かわいげがでてきたと思う、ここまでく

るのに長い時間が必要だった。

 

あと一押し、

あと一押しが祥子には必要なのだ。

私には時間がない。

まだ伝えたいことがあるのに…

卒業しても、祥子のためにできることをしてあげたいとは思っているけれど…や

っぱりひとりで解決しなければならないことは増えるだろう。

まだ安心して、この子の手を離そうとは思えない。

それにできれば祥子の妹の姿も見ておきたかった、これは私のわがままかしら?

無理かと半ば諦めていた祥子の妹。やっとできた候補は大切な友人の妹におさま

ってしまった。それはそれで喜ばしいことだったけど…

ふられた祥子がどうなるか、多少心配ではあったのだけど思ったよりずっとすっ

きりした顔をしていて、そんな妹が私はとても誇らしかった。

もしかしたら私がいなくなったあとになったとしても良い妹が見つかるかもしれ

ないと希望がもてた。

そしてひょんなところから現れた妹候補、福沢祐巳。私の勘が囁きかける、きっ

と彼女は祥子の妹になるだろう。

「ねぇ祥子、祐巳ちゃんの素直さは相手に対する誠実さの、つまり気遣いの現れ

なのよ」

「はい?」

突然の話題に祥子はついていけなかったようだ。

「わがままなのは無意識でやることでしょう?だからあれは素直さとは全く別な

のね」

「つまりお姉さまは意識しなさいと私におっしゃりたい訳ですね」

「あら、それは心当たりがあるということかしら?」

祥子はこちらに向きかけた顔をまた戻してしまった。

「あら、かわいい」

何度でも言ってあげる、だから信じて。

かわいくない、

私だけのかわいい妹。

 

あなたに最後の贈り物をするわ。

きっと彼女はあなたを変えてくれるはず…

だから彼女に早く気付いて。

妹を想う、こんなきもち、早くあなたにも知ってほしい。

 

 

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