桂さんの山百合会体験記2

 

 

 

お姉さま、一度あることは二度あるとはいいますが、本当だったん

ですね。私はまた祐巳さんのお誘いで山百合会のお手伝いをするこ

とになりました。もう二度目ともなれば、なれたもの…などといえ

るはずもありません、お姉さまに恥をかかせないために私は気をつ

けたいと思います。

前回、皆から熱く感謝された例の件ですが、実際に話をふった方か

ら「何かおかしい」という苦情が来ましたが気のせいでしょう。

今回も何があるかわかりませんが、精一杯薔薇様方のお役に立ちた

いと思います。

 

 

「またごめんね、部活動あるのに」

「ううん、むしろ皆行って来なさいって送り出してくれたから」

そう、山百合会のお手伝いをできるのは名誉なことだと部長から直

々のお許しが出たのである。その時カメラが彼女の手から差し出され

る前に逃げたのは自分のことながら賢明だった。

薔薇の館の扉が開きます。

やはり何度来てもどきどきしてしまうものです。前回から引き続き鋭

意練習中の自己紹介を頭の中で繰り返します。

「あ、志摩子さん、ごきげんよう」

「あら、祐巳さん、ごきげんよう」

私にとっても同級生である藤堂志摩子さんがいました。

彼女は本当にお人形さんのようで、このクラシックな館にぴったりと

似合っています。同級生で、今も同じ空間にいるのに、まるで彼女の

周囲だけ空気が違う気がしました。

「あら、桂さん、ごきげんよう。お手伝いに来てくださったのね」

「えぇ、志摩子さんごきげんよう」

視線を向けられてふんわりと微笑まれただけで、顔が赤くなりそうに

なります。不思議です。お姉さまだって見ればわかりますよ。

え?言われなくたってわかってる?それはどういう意味でしょうか?

お姉さま…

「白薔薇さまはまだなんだ?」

「お姉さま?さぁどうだったかしら…?」

にっこりと笑ってそう答える志摩子さん。

「そっかぁ、じゃまだなのかな」

至って普通の返答の祐巳さん。

 

気にならないのかしら…?

と私は思いました。

私だったらいつも部活に行ったらすぐ、お姉さまがいるか確認してしまい

ます。だってお姉さまがいるのなら、すぐに準備してお話したいからです。

それなのに、志摩子さんは全く悩む様子も無く、そんなことは気にしない

という態度でいます。祐巳さんもそれに対して何の疑問も抱いていません。

気にならないわっていう態度をとっていたいのでしょうか?

けれど、私の目には志摩子さんがそのような人には見えません。

そこではっと気づきました。

実は私は白薔薇さまの姉妹については何も知らないということに。

彫りの深いエキゾチックな顔立ちの白薔薇さまと

清楚で可憐な美少女の志摩子さん。

二人を並べれば、完璧なバランスで、それだけに目を奪われていたのです。

知ったようなつもりだったんですよね。

 

そして私は今日は許す限り、白薔薇姉妹を見てみようと思いました。

 

「ねぇ、志摩子さん。白薔薇さまってどんなものがお好きなの?」

志摩子さんと白薔薇さまは姉妹になられる前からお知り合いだったのだから、

きっと白薔薇さまについて詳しいのだろうと思っていました。

「どんなものがお好きなんでしょうね?今度聞いてみるわ」

さっきと同じようににっこり笑って志摩子さんはそう答えました。

「し、知らないの?」

「えぇ、特に好き嫌いの話をしたことはないわ」

私は呆然としました。

私はお姉さまの妹になった時、お姉さまのことが知りたくて、たくさん質問を

していましたよね?

え?迷惑でしたか?

あぁ良かった。そんなことないっていってもらえて安心しました。

志摩子さんはまるでお姉さま、つまり白薔薇さまに興味がないのでしょうか?

いえ、そんなことがあるはずがありません。

なんと言っても、祥子さまでなく、白薔薇さまを選ばれたのだから何かあるは

ずです。

「白薔薇さまはね、ブルマンとマスタードタラモサラダサンドが好きなんだよね」

と、突然祐巳さんが会話に参加してきました。

「まぁ、そうなの?祐巳さん」

「うん、あれをわざわざ食べるってことはすごく好きなんだと思うな」

「お姉さまったら…」

のんきなやりとりをしている二人。

何故…妹が知らないことを祐巳さんが知っているのか…?

祐巳さんはそんなに白薔薇さまと仲が良いのでしょうか?

それで志摩子さんは平気なのでしょうか?

こんなこと面とむかって聞けるわけもなくて、私はただふたりのやりとりを見て

いることしかできませんでした。

 

「ごきげんよー!」

ばたんと元気よく扉を開けて、誰かが入って来ました。

「あ、ごきげんよう、白薔薇さま」

「ごきげんよう、お姉さま」

し、白薔薇さまです!

あのどこか冷めたような、大人っぽい雰囲気はどこへいったのか?

私は我が目を疑いました。

しかしこれだけでは終わらなかったのです。目を疑うような出来事は。

「祐巳ちゃーん、会いたかったよーん」

この口調にも違和感を抱きましたが、そんなことは問題じゃありません。

次の瞬間とんでもないことが起きたのです。

ぎゅー

っと音がしそうな程強く、がばっと白薔薇さまは祐巳さんに抱きつきました。

「し、白薔薇さま〜離してくださいぃ〜」

「いーやー、離さないもーん」

妹である志摩子さんの目の前で、信じられない行動が繰り広げられています。

しばし、呆然としていましたが、隣の志摩子さんを見ると…

笑ってる…

そう、笑っていたのです。にこにこと。まるで幸せそうな顔です。

 

私は黙っていられなくなって、志摩子さんに小声で聞きました。

「ねぇ?いいの?」

「何がかしら?」

とぼけているのでしょうか?

「ゆ、祐巳さんと…白薔薇さまが…」

私が口ごもるのを見て、志摩子さんは少し考えたあと、あぁとつぶやきました。

「いいの?ねぇ?嫌ならいわないと…」

「いいのよ」

志摩子さんの笑顔に私の抗議は消されてしまいました。

私が釈然としない顔をしていたのでしょう、志摩子さんは再び言葉を発しました。

「私たちってね、そういう姉妹なのよ」

 

…なんだかその表情がすごく自然で、その時はそういうものかと思ってしまったの

すが…

やっぱり山百合会って不思議なところです。

 

 

 

お姉さまは私だけですよね?

そんなこと聞かないで、ですか?

たまには聞きたいんです。ねぇ、お姉さま?

 

 

 

 

 

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