彼女を探す。

走る。

教室にむかおう。

 

早く、あなたに会いたい。

あなたなら簡単に私を見つけるんだろう。

辛い時私のそばに来てくれた。

これからは私が行く。

あなたが辛いなら、私が。

 

青い空は、夏の日の海を思いだすね。

あの時の私の言葉はどれほどあなたを射ぬいたの?

想像もできない痛みを

あなたはひとりで抱えてきたんだね。

もうひとりじゃないよ。

少なくとも私は今あなたにそう言うことができる。

心も体もあなたのそばに、

こんなに行きたいと望んでいるから。

 

ねぇ、

あなたは応えてくれる?

 

 

教室にはいなかった。

私は階段を駆けおりて、

靴もはきかえず校舎裏に出た。

葉もだいぶ散り落ちた桜の木の下に、

歯車の彼女が、いた。

「お姉さま」

「…志摩子」

今私はあなたの目にはどう映る?

卑怯者?

あなたの手首で揺れるロザリオは、揺るぎない誓いの証。

「紅薔薇さまは、あちらに、温室でお会いしました」

何故そんなに私がわかるの?

志摩子の口からこぼれたのは、私の求めたもの。

涙で滲む志摩子は幻でなく、

そこに確かにいて、

私を見ているのに、私は何もしてやれない。

志摩子は桜の妖精なんかじゃない。

誰の身代わりでもなく大切な人。

そこにいて、

私に語りかけ、

私を救う。

「あなたは私の、世界でただひとりの妹よ、志摩子」

「私以外にお姉さまの妹は務まりません」

力強い微笑みが私の背を押した。

 

名残惜しいけれど、もう行くよ。

待っている女性がいる。

「またね、志摩子」

「はい」

次会う時は私も笑っているから。

 

 

悲しいのか、苦しいのか、

わからなくなってしまった温室が見えてきた。

「蓉子」

愛しい人よ。どうかもう一度ふりむいて。

あなただけに会いたくて、気持ちだけなら空をも飛んだ。

だから、本当の気持ちを聞いて、聞かせて。

「!聖、あなたどうして」

「志摩子が教えてくれた」

「志摩子が……」

信じられないという顔で私を見ている。

振り向いて、

私を見て、

口を開く、

ただそれだけの蓉子の動きが

私の目にはスローモーションになって、

焼き付く。

今まで私はどれほどの彼女を見落として来たんだろう。

もったいなくて、どうしていいかわからない。

だからお願いこの腕の中で、

零れることなく、あなたを見ていたい。

「すきだよ、蓉子」

弾かれたように私を見て、私の行動に息を飲んだ。

「どうして、私、なの」

「どうしてだろう?でもこれが私の答え」

「………」

蓉子はただ無言で、でも目まぐるしく何かを考えていた。

こわい気持ちは消えない。

あんなにひどいことをした私をそう簡単に受け入れるなんて、

そんな都合のいいことありえない。

 

「おかしいわね

 私も見当たらないの」

「何が?」

「あなたをこんなに好きな訳」

 

聖は笑った。

そして、私を抱き締めた。

私は泣いていた。

初めて聖の前で泣くことができる。

自分の中のわだかまりがゆるゆると溶けだしていくような涙だ。

罪悪感や嫉妬、

心のままに言葉を発することを許せる喜び、

すべてが絶え間なく沸き上がる。

苦しかった、淋しかった、辛かった。

けれどそれはちゃんと未来に続いていた。

あなたとの未来に。

全てを受け入れるように、聖はうなづく。

 

「ごめん、蓉子」

「うん」

「ありがとう、蓉子」

「すきよ、聖」

 

引き寄せられるように、交わされたくちづけ。

 

それが合図。

あの春の日に結ばれた偽りの恋人たちは、

至上の想いで本物になった。

運命の歯車が、切り替わる音がして、遊戯は終わる。

 

聖は青い空を見上げた。眩しい空にももう目をそむけない。

マリアに正解かと尋ねたけれど、

そんなの意味がないと思った。

 

ただひとりのための答えだから、

 

蓉子、

あなたがいてくれて、よかった。

 

 

 

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