ゆっくりとした足取りで、

私は志摩子をたどる。

あなたは私の運命の人、

こうして歩んでいく一歩一歩が

すべてあなたへと収束してゆくの。

それがわかる。

きっとあなたもわかっているはず。

どんなに絡まりあった糸も

あなたと私が引き合う力の前では意味がない。

あなたはそこにいるだけで私を

ひとりじゃないと実感させてくれた。

やりきれない孤独を忘れさせてくれる。

いつだって人はひとりだ、

生まれてくる時も、死んでいく時も、

だから生きている時くらいひとりじゃないと思いたいんだ。

どうせ勘違いをするのなら、

あなたがいいよ、志摩子。

 

思い出すのはコーヒーの味。

あなたと私以外誰も知らないあの記憶が、

私の冷えた心をどれだけ温めたかわからない。

あんなに私に似ているのに、私と違ってあなたは暖かい。

きっとあなたといたら、

私も何かを与えられるように変われる気がする。

 

運命の分岐点で、あなたに出会って恋をした。

あなたもきっと私を待っていた。

あんなに何かを求めることをこわがる志摩子が、

震える身体で想いを伝えてくれたのに、

それに応えられなかった。

もう遅い?

あなたには追い付けない?

 

でも、それでも私は

あなたに会いたい。

 

期待に震える身体を押さえるように、

確実に歩く。

あなたは私の好きな人、

きっとこの手で捕まえる。

ぐるぐると校内を回っていると、

先に彼女に会ってしまった、

因果にもそこは温室の前。

「聖」

驚いたことに彼女から

話し掛けてきた。

私は別れ道のむこうの彼女に足を止める。

「蓉子」

彼女を前に、あふれる気持ちは感謝だった。

あんなにひどいことをした、

あんなに私を思ってくれていた、

 

それなのにただ目の前のあなたに私は

敬意と感謝を捧げたいと思う。

「志摩子はむこうよ」

彼女はいつの日もこうして美しく微笑んで、

私に道を教えてくれる。

「きっとあの桜の場所ね」

どうしてそんなに優しいの?

優しすぎて泣きたくなる。

私はこぼれ落ちる涙を止められなかった。

「聖の泣き虫」

蓉子の白い手が私の涙をぬぐった。

「私、江利子を愛してる」

「何言ってるの?」

可笑しそうに声をあげて、蓉子は笑う。

「そして蓉子を愛してる」

「ありがとう、……もう行きなさい」

私は頷いて、

大丈夫だって歩きだした。

また会いましょうって

背中で語れていたらいいなって思う。

 

 

初めて志摩子に会った場所、

姉妹になると誓った場所、

もう出会ったころのような桜はないけれど、

淋しいくらいの世界が広がっているけれど、

でも…

 

「志摩子」

「お姉さま!」

まるで約束したみたいに志摩子はそこにいて、

これは私が選んだ運命なんだと確信する。

「やっぱり私たちは会える」

「ここは約束された場所だから」

笑って志摩子は私の言葉に応じた。

 

あぁ、嬉しくて

嬉しくておさまったはずの涙がまた溢れてしまいそうだ。

 

あなたがいて、

私がいて、

それがとても愛しい。

 

言葉と表情と、

お互いのサインがいつだって通じていて許し合える。

悲しい別れもすべて、あなたに会う布石だったんだと今思える。

高鳴る胸に不安の音は聞こえない。

 

「遅れてごめん、私は藤堂志摩子がすきです」

「はい、私も、です」

 

まるでわかっていたかのよう、確認し合うような告白。

志摩子は私の胸に飛び込んできた。

 

 

あんまり嬉しくて

私は少しおかしくなってしまったのかもしれない。

笑っているのに、

何かが壊れてしまったみたいに涙が出てきて、

お姉さまの姿が滲んでしまう。

顔を上げて、少しだけ背伸びしてお姉さまを見た。

するとお姉さまの手がすっと伸びてきて私の髪を梳いた。

それは不思議とお姉さまの優しさを伝えてくるようで

私はいつまでもそうしていてほしいと思った。

けれどゆっくりとお姉さまのくちびるが近づいてきて、

私は目を閉じた。

出会えてよかったと喜びを感じ合えるキス。

 

 

この先に何があるかなんてわからない。

聖は思う。

一緒に不幸になるかもしれない、でもそれもいい。

 

けれど、

 

やっと出会えた、運命の人よ、

一緒にしあわせになろう。

新しい誓いを、誰よりもあなたを思うよ。約束だ。

 

 

 

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