Interview  with  山百合会 −予告編−

 

 

 

それはある日、山百合会を襲った。

 

「インタビュー企画?」

紅薔薇さまはこれ以上ないほど上品に小首を傾げた。

私は一瞬言葉を失う。ぷるぷると頭をふって邪念を払う。

だめだ、流されては。

絶対に成功させなければならない企画なのだ。

うなずいてもらわねば、帰るに帰れない。

「それは一体どういう趣旨のものなのかしら?

 いきなり企画に参加してくれ、と言われてもねぇ」

つまらなそうに眉をよせた黄薔薇さまは目だけを私にむけた。

それは結果的にすさまじい効果を放つ流し目となり、

私は再び自失する。

「まぁまぁお話を聞きましょうよ、

 何だかさっきから彼女、話してなくてよ」

優しい白薔薇さまのフォローに涙が出るかと私は思った。

そう、緊張している。

なんといっても薔薇の館に入るなんて初めての経験なのだ。

感動のあまり、じっと白薔薇さまを見てしまう。

 

あぁお姉さま、

私入学以来お姉さま一筋でしたが

初めてそれを違えるかもしれません。

白薔薇さまに後光がさして見えます。

 

すると白薔薇さまは私の肩に手を触れた。

「初めては緊張するよね?

 でも大丈夫。みんな優しくするから」

近づいて来て微笑んだ白薔薇さまだったが、

その微笑みはいわば「妖笑」とでも言おうか、

妙な色気を感じる。

 

前言撤回、私はお姉さま一筋です。

 

「とにかく先を聞きませんこと?お姉さま方」

どんどんと話がずれていく様を見ていられなくなったのか、

紅薔薇のつぼみが助け船をくれた。

そう、運良く山百合会メンバーが一同に会している。

この期は逃せない。

私はとにかく承諾をもらえなければ帰れない身の上なのだ。

「お昼の放送に出演していただいて、

 インタビューに答えて頂きたいんです。

 質問は生徒から募集するつもりです。いかがでしょうか?」

 

言った!私言った!

かなり早口だったけどね!言い切ってやったわ!

 

私の中に激しい満足が押し寄せて来た。

「私たちのインタビューなんてそんなに価値のあるもの?」

素直に疑問を呈して来たのは黄薔薇のつぼみ。

それをあなたが言いますか?

私は自覚のない人っているんだよなぁと黄薔薇のつぼみを見た。

あなたのインタビューなんて、かぶりつきますよ、皆。

とは言えず

「もちろんです、是非校内放送の充実にご協力を」

と答えた。

「あの、私たちも参加するのでしょうか?」

1年生代表という形でなのか

白薔薇のつぼみが遠慮がちに問い掛ける。

「えぇ、是非。最近山百合会に入られた方には

 みなさん興味がおありだと思います」

私の返答に1年生三人衆は顔を見合わせた。

どうも蚊帳の外気分だったらしい。

「見せ物になるようで、正直気が進まないわね」

眉をひそめて麗しの紅薔薇のつぼみは言う。

これがただの用件なら、私はこれで退散したに違いないが、

まだすべきことがあった。

「お、お願いします!みなさん、

 新聞部のような事態を想定されているのですか?

 それはありません。完全にリアルタイムですし、編集もしません。

 みなさんの声をそのまま伝えられます!」

熱弁をふるう私を見て、紅薔薇のつぼみも考え込む。

そして実はその裏で三薔薇さまが目配せしあっていたことに

私は気付かなかった。

「いいわ、条件付きでお受けしましょう」

紅薔薇さまは唐突に受諾の意を表明した。

「お姉さま!?」

驚きのあまり声を発したのは紅薔薇のつぼみだったが、

三薔薇さま以外は一様に目を見開いている。

「何?祥子」

「何?ではありませんわ、あまりに唐突です。

 もう少し皆の意見を……」

懸命に再考を促す紅薔薇のつぼみの言葉も、

糠に釘、

のれんに腕押し、

紅薔薇さまはその余裕を崩さない。

「祥子、私はねこの山百合会をもっと

 開かれた存在にしたいの、いい機会だわ」

にっこり笑って威圧する。

その様に紅薔薇のつぼみも言葉を飲んでしまった。

その様を見て、

不吉な笑いを浮かべるのは黄薔薇さまと白薔薇さま。

「お姉さま、何を笑っていらっしゃるのですか?」

「え!志摩子、何言ってるの、笑ってなんてないわよ」

「そうですか……?」

妹の眼差しから逃れるように視線を紅薔薇姉妹へとむけた。

「とにかく、お引き受けするわ。いいわね、祥子」

「……わかりましたわ」

しぶしぶ了承する紅薔薇のつぼみは

気遣わしげに妹である祐巳さんを見ていた。

何となくわかる気もする。

祐巳さんという人は、私の目から見てもとても普通の人だ。

心配なのも無理はない。

 

「忘れないでくださる?条件があるのよ」

「は、はい」

引き受けてもらえて安心していたから、

突然話を戻されて驚いた。

「どのような条件でしょうか?」

緊張で声が震えてしまう。

どうか無茶な要求でありませんように…!

 

「インタビューアーをこちらで指名させていただきたいの」

 

と予想もしなかった提案が紅薔薇さまの口からなされた。

「は?」

「まだ決まっていないのでしょう?

 まぁ決まっていても覆していただくけれど」

と穏やかでない発言が黄薔薇さまから飛び出した。

「いえ、そのくらいならたぶん問題ないかと……」

私はおそるおそる返答する。

「で……一体誰を?」

聞くのがなんだか妙にこわい。どうしてだろう。

嫌な予感。白薔薇さまが優雅に微笑む。

その笑みは何故か紅薔薇のつぼみに向けられていた。

「福沢祐巳さんに」

信じられない言葉は、

信じられない程はっきりと私の耳に届いた。

「え!えぇええ!」

薔薇の館に響き渡るような声で祐巳さんは叫んだ。

 

寝耳に水ってやられたらほんとに驚くよね!

とか意味のない思考が頭をかすめる。

 

「そ、そういうことですか!お姉さま方」

「さ、祥子落ち着いて」

激高する紅薔薇のつぼみを必死になだめる黄薔薇のつぼみ。

 

「何を企んでいるんですか?黄薔薇さま」

黄薔薇のつぼみの妹、島津由乃さんは

驚くほど冷静な態度で黄薔薇さまを問いただす。

「たのしいこと、よ。由乃ちゃん」

滅多に見れないであろう黄薔薇さまの満面の笑顔に、

由乃さんも口をつぐんだ。

 

「わ、私できません、無理ですっ」

きっとその頭の中はぐるぐると色んな思いが巡っているに

違いない。

もうどんな顔をしていいのかわからないといった表情で抗議する。

「あら、それは残念。じゃこの依頼は断るしかないわねぇ」

わざとらしく眉を寄せ、肩を落として黄薔薇さまは言った。

「そ!そんなの困ります!」

慌てて私は自己主張する。

「だって仕方がないでしょう?

 祐巳ちゃんが嫌だって言うのだもの」

黄薔薇さまはさも当たり前と言わんばかりの態度だ。

「祐巳さんっ」

私は祐巳さんの手を握り、涙を浮かべて訴える。

「お願い、引き受けて!

 原稿はちゃんとこっちで用意するから!読むだけでいいから!」

「で、でも……」

「お願い!私を助けると思って…お願いしますー」

私は深々と頭を下げた。

「頭を上げてください、や、やめて」

私の肩に手をかけて身体を起こそうとする祐巳さんに

私は必死にあがらう。

「いやっ、やめない。祐巳さんが引き受けてくれるまではっ」

お互い引くに引けず、

祐巳さんは今にも爆発しそうだ。

眉を下げ、弱り切った顔をしている。

罪悪感に胸が痛むけれど、それでも頭を下げる。

 

「わ、わかりました。やりますやります」

この苦しい時間に耐えかねた祐巳さんが折れた。

「ほんと!?ありがとう祐巳さんっ」

がばっと身体を傾けて私はおじぎする。

「もういいですって。私頑張りますから」

祐巳さん…巻き込んでごめんなさい、ありがとう。

私も頑張ってサポートするから…!

 

「お話も済んだようね、

 じゃ細かい打ち合せは後日でいいのかしら?」

紅薔薇さまが話をまとめてくださる。

「はい、本日はありがとうございました」

私は実に充実した気持ちで薔薇の館をあとにした。

 

この私の提案が祐巳さんにどんな受難をもたらすかなんて、

まるで知らないままに……

 

 

 

 

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